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日記帳。
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大いなる篝火
目の前は大浴場。湯加減は適温。
立ち上る湯気に誘われるように陽炎は鳥の形に青く燃え上がり、誘われるようにざわりざわりと姿を現すその他の有象無象。
翳した剣の慈悲に浸って逸る心を落ち着けるために一瞬だけ目を閉じた。夢ならいい。夢だったらもう見飽きた。涙も涸れた。高い鳥の鳴き声に目覚めを喚起されたような気がして目を開く。瑠璃色。力の残滓。


「参りますっ」

ぶわり。その細い背中の背後に出現した光の十字架から、目を焼くような光りが…実際目を焼かれたのか、目を押さえてのたうつその腕からもしゅうしゅうと白い煙が立ち昇って、おぉ。B級ホラーのヴァンパイアが日光に当たったシーンみたい。なんて思ったりしたら、学園にいるヴァンパイアの人たちは顔をしかめるだろうか。

「つーか、あれだよな。まじウゼェ…群れるな。…リリスはよし。」

リリスは可とか言いつつ、その身から解き放たれた黒い蟲たちは、浄化の光を受けて転げまわる雑多に襲い掛かった。多数の悲鳴に混じって女性特有の高い悲鳴が頭を割るように響き渡る。

「おぉ。」

強力な範囲攻撃がばしばしとそこに動くものを食らい尽くしていく。

「んではっあたしもいっきまっすかー!」

前に出た瞬間だった。目の前に青い壁。思わず手を突き出して防御をしようとしたが、間に合わなかった。顔面に触れた感触はなんとも言いがたく、ただ、瞬時に熱いと感じた。目の中の液体が沸騰しているような痛み。叫びをかみ殺そうとして唇を噛み締めたら一気に血の味が広がる。

「ぁ、」

痛みに塗りつぶされた視界が怖い。見なければ。戦況を確認しなければ。痛いのにかまけてる暇なんてないだろう?なぁ、あたしは、 。
色をちゃんと認識できない視界にただ映るのは影。動くものの気配だけ。向けられた殺気にぞわりと本能が逃げろを叫ぶ。炎がまとわり付いて離れない。じわじわと皮膚を食い破るように痛みを植えつけている。それはいい。まだいい。まだ戻らないぼやりとした視界の中で足掻く。剣を翳した。影を纏う剣の感触は、譬え視界を奪われていようと間違えるはずはなく、一番目の前の気配に思いっきり斬り付けた。確かな手ごたえを感じたのも束の間、横殴りに何かが飛んできた。初手は、未だ突き立った得物を踏み台に飛び上がることで避けた。次は、避けられなかった。地面との距離も測れないまま、受身を取ろうと左半身を捻った状態で、真上から振りかぶられた、鉄の塊のような、硬いもの。…ハンマーあたりだろうか。骨も折れよと叩きつけられて息が出来なくなる。
悲鳴も出ないほどの痛みに動けないでいると、突如獣の悲鳴のような絶叫が響き渡り、身体を押さえつけていたものがどかされる。
ふと、視界がクリアになった。何事だと見ればふわりと翅をひろげた黒い蝶。傷を這うように寄り添って痛みを遠退かせる。
どうやらあたしを潰しかけたのは蒼面僧正の拳だったようだ。その赤い瞳のど真ん中を貫いた、青い刀身の美しい念動剣。呆然と見上げていると、眼球を引き裂くように現在突き立った逆側に刀身を滑らせてずるりと剣は浮遊して眼球から抜け出る。割れ鐘のような濁った悲鳴を響かせてのたうつ存在など知らないとでもいうように、いっそ優雅に、血の軌跡を描いて群青色は流れ星のように飛翔する。そして、従順な猟犬のように白い主人の下へ。

「何やってんだ。馬鹿が。お前が倒れたらか弱い俺や利亜ちゃんはどうすんだよ。」

お前は肉の壁なんだろ。へこたれてんじゃねーよ。

まとちゃんがこちらを見ないまま目の前を通り過ぎて、もう使い物にならない目を押さえて転げるそれへ、柄の長いライフルの砲身を握り締め銃床を思いっきり叩きつける。
…ヘヴィクラッシュ…好きだったもんねー…。なんて武器の使い方してるんだと唖然としていると

「祭屋せんぱいっ」

利亜ちゃんの声。早口で唱えられたそれは、呪文というよりはどこか歌のように軽くて優しい。手にした長剣に注がれた力が輝きを増す。

「…行けるな?」
「……誰に向かって言ってるね?」

ぎゅっと拳を握り締めた。いっそ恐ろしいくらいに力が漲って気分は某戦闘種族!金髪にはならないけど!オッスッオラ…とか言わないけどっ。

「ありがと。…元気出た。」

ひぃぃぃ。高い鳥の声。痛みの歌。
今や一羽だけ残った青い篝火。ねぇ。お前が立派になったら、あたしの恋した存在になってくれるのかな?
笑えた。馬鹿らしい。あたしの心を震わせたのは先にも後にも【麒麟】という存在だ。代わりはいらない。

「あったしと、愛し合おうっていってんだろ聴けよその全身でさぁ!!」

前に立ったまとちゃんを横に蹴り飛ばし、青い炎の洗礼を真っ向から受ける。じゅっと焦げる肌の音。呼吸を止め忘れて咽に熱気が舞い込む。びりりとした痛みが全身を包んだ。あたしは一瞬にして酸素の欠如したその場所を蹴り飛ばすように走り出す。真っ直ぐ、その瑠璃色の翼へ。

キィィとのたうつ声色が変わってふと後ろを見遣れば、毒のような鉄の目で睨みつけたまとちゃんの姿。ひときわ輝く光の槍を虚空に構えて、勇ましく瑠璃色を見据える利亜ちゃんの姿。
ミサンガが飾る細腕が柳のようにしなやかにしなり、真っ直ぐ撃ち出された、いっそ美しい軌跡を描いて飛翔する光は、毒に侵された瑠璃色の炎に、突き立つ。
飛沫く体液すらないのだろう。青い炎が爆ぜて聞くに堪えないほどの超音波染みた悲鳴。常に痛くて辛いはずなのに、もっと痛いと泣くのか。そんな苦しげにいっそ美しく、お前は、お前は。
影を纏った白刃で刈り取るように、飛び上がった。今や空中に浮いているだけでも辛いのだろう、狂ったように翼をはためかせる瑠璃色と並ぶことなど容易くて。下から掬い上げるように刃を反す。

「おやすみ。…良い夢を」

瑠璃色の鳥は、水にその身を清められることなく。水面に触れるぎりぎりで、燃え尽きたように一瞬炎を揺らめかせて、塵と残さず消えた。
 

 

利亜ちゃんはあれは名前出し許可なのだと勝手に受け取ったよ!
まとちゃんも了承ありがとう!
あぁ楽しかった…

気づけば短文どころじゃないけど…気にしないっ
 

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