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いやいやいや。人間の骨格ってそんな単純なものじゃないし。
翼は前肢が進化したものだから腕の他に背中に翼なんて生えたらそもそも4本腕だしなんだそれどこの宗教の多腕神だよ冗談じゃない。
しかも、絵本などで見る白いふわふわとしたものではなくて、空気を切るのに適したシャープな猛禽のそれだ。色は灰色をベースにした明暗のある斑色。
ぐっと、腕を後ろに反らせてみると、肩甲骨の上下に連動するように付け根の部分からゆるいカーヴを描く小雨覆が押し出されるように拡がった。
…動いた。
試しにと、羽を動かしてみた。動かしてみたというか、そこに連結された何かを、丁度腕を振るう動作に真似て動かしてみた。というほうが正しいか。ばさりと、背中に近い部分の骨から動いて、連動させるように羽先へ伝達され、繰り人形染みた動作で、ひとつぎこちなく羽ばたいた。
自分の意志で動かせるものらしい。ついでに腕も一緒に動いた。もともとそんな器用な方じゃないのだから仕方ない。因みに両手でピアノをひくと常に左右の指の動きが一緒だ。
指を動かせないまま腕を動かしている感覚。奇妙の一言。背筋の筋肉が引きつるような、知らない筋肉の動きをとらえてぐらぐらと混乱をきたすが、それも暫くすればおさまった。
情報処理系統はどうなってるんだろう。手を切断してしまった人がその手の感覚を覚えている、ということは知っている。聞いた話ではあるが、元々四肢の欠けた状態で生まれても、動かすための機能は維持しているという。あたしの脳には第三、四の腕に対応できるようにできたというのか。
捨てちまえそんな無駄極まりない潜在能力。
まぁ、落ち着こう。翼が生えたということは、イコール飛べると言うことではないだろうか。凄い。万人が夢見た空へと自力で羽ばたける日が来るとは。…そんな機会はいらないので羽毛布団下さい。
まぁ物は試しと、立ち上がった……………。立ち上がろうとした。
重い。
立ち上がれない。肩甲骨が、もげる。そんな重量。こんな面積の狭い部分にこの重量をどうやって支えるというのか。そんな補助筋肉がない。どうしよう。結果から言うと、痛い。ものすごく、痛い。羽根の大部分はまだ地面に預けてあるというのに、中腰のまま固まらずにはおれない重量だ。
そもそも体重のある鳥は総じて助走を必要とするのだ。だが、こんな重いものを背中に背負ってどんな速度で走れるというのか。ハチドリのように高速で羽ばたかせては如何だろう。と一瞬考えた。しかし次の一瞬には筋肉断絶だなとこっくり頷いた。
移動するのは諦めた。
ぼーっと、するのは、実はそんなに好きではない。起きているか、寝ているか。半端は嫌いだ。どちらかというと、寝たい。……はっとした。自分としたことが。こんなにも、素敵な、自前の羽毛布団があるではないか。
迂闊だった。睡眠愛好家としての欠落だ。なんと言うことだ。動くより静まれ。急いてはことを仕損じる…。眠いのか。自分は眠いのだろう。うん。
よっこらせ。と身を横たえた。そのときだった。
「ぅ、ぐ、…っ、がぁ、ぁっ」
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
骨が、軋む。筋肉があらぬ方向へ引っ張られて痛い。
羽根が、反り返る。骨組みが、力の許さない方向へ曲がって、今度こそ、肩甲骨を剥がされてしまう。みりみりと、何の音だ。
身体を倒した下の方になった翼が、無理に折りたたまれていた。神経を、骨を、肉を、己の重量で、押し潰す。毛細血管から破裂していくような?潰された肉の感触。
ばたばたばた。
足が宙を掻く。重いリュックを背負ったまま、身を起こそうとして、失敗する。重い。痛い。死ねる。軽く死ぬ。腕を身体の下から差し込んで羽を潰さないように押し上げて、じわじわと、上半身を戻すことに成功した。羽根の付け根は裂けていないだろうか。と思い振り向いてみたが、灰色の羽毛が綺麗に生え揃ったそこは、綺麗にカーヴを描いていた。
…横になれない。
「こんな無意味なものいらないよ!!!」
自分の叫び声で。目が覚めた。
お後が宜しいようで。